馬鹿猫ども

愛らしいのだが馬鹿ばかりをしている我が家の猫ども(元野良猫)と、その飼い主である猫好きの母と、そこそこ猫が好き程度の家族の日記です。

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今まで生きてきて、俺は3回ほど入院している。

一度目は中国の瀋陽で、二度目は日本の川崎で、三度目は日本の茅ヶ崎でだ。一度目と二度目は食中毒だ。三度目は交通事故だ。どれも退院まで一週間以上かかったと記憶している。

今回書く話は二度目の入院の話。

俺が20代の前半の頃、川崎市にある会社に勤めていた。ある日、上司と一緒に昼飯を食べに会社の近くにある中華料理屋に出かけた。初めて入った店なので何が美味いのか判らない。そこで上司と一緒に注文したのが無難そうに見えたランチメニューの豚肉の韮もやし炒め定食だ。運ばれてきた豚肉の韮もやし炒めの味は、美味くも無く、不味くも無い。定食の値段を考えれば、文句は言えない味だ。そんなことを考えながら食べていると、上司が急に声を上げた。

「なんだコレ!」
「豚肉と韮ともやしの炒め物ですよ」
「そうじゃねぇよ! コレ、コレ! これを見ろよ!」

そう言って上司が豚肉の韮もやし炒めの中から箸で取り出した物は、大きな段ボール箱を止めるようなホチキスの針だ。俺も自分の豚肉の韮もやし炒めを箸で探ってみる。俺の方には何も入っていない。

「当たりですね」
「当たりじゃねぇよ!」

上司は俺の冗談に笑わず、店員を呼びつけて早く新しいのを作って持ってこいと怒鳴った。俺は上司と同じ定食を同じ時に食べているのだから、俺の定食にもホチキスのエキスが十分に入っている筈だ。しかし、俺は怒っている上司をなだめながら、その事実に気がつくことなく、問題の豚肉の韮もやし炒めを完食してしまった。

上司の怒りが凄まじかった為に、店の人は急いで新しいのを作って持って来た。

店からの陳謝だろうか、テーブルに置かれたのは大盛りの豚肉の韮もやし炒めだ。上司は箸で豚肉の韮もやし炒めの中を探り、ホチキスの針が入ってないのを確認している。何も異物が入っていないのを確認してから、食べようとしたのだが、上司は何故か急に手を止めた。

「俺は豚肉があまり好きじゃないんだよな」
「じゃぁ、なんで注文したんです?」
「兎に角、豚肉はいいや。君、食べる?」
「もったいない。食べないなら自分が頂きますよ」

上司は韮ともやしだけを食べた。
そして、意地汚い俺は上司の残した豚肉を全て平らげた。

怒鳴られて急いで作った豚肉の韮もやし炒めの豚肉は火が通っていなかったのだ。食べているときに、何となく生っぽいなとは思った。何となく豚肉がピンク色だなとも思った。でも、俺は全て平らげてしまった。

その日、会社の営業時間中は俺の体調に変化は無かった。
俺の体に異変が起きたのは、仕事を終えて帰ろうとしたときだった。

腹が痛い…。
腹の調子が悪い…。


このまま帰宅したら、途中でお漏らししてしまいそうだ。
それは大人として避けなければいけない。

腹痛が治まるまで会社で休んでいようと考え、誰も居ない会社の応接室で横になって休むことにした。1時間経っても、2時間経っても良くならない。それどころか、どんどんと悪くなっていく。これはマズいかなと思い始めた時、突然猛烈な腹痛と止めようの無い下痢に襲われた。

下痢が止まらないので応接室には居られない。
トイレに籠もる。

脂汗が出てくる。
寒気もしてきた。
物凄く怠い。


トイレに籠もること数時間…。

もう駄目だ…。
救急車を呼ぼう…。

歩くことが出来ないほど辛い。這うようにしてトイレを出て、電話のあるデスクへ向かう。119番に電話をかけたら録音テープが流れた。この時間は消防に電話しろと言っている。なんの為の119番だと頭にきたが、言われたとおりの番号へかけなおす。消防に事情を説明し助けを請う。

ものの数分で救急車は到着した。(10分も待たなかったと思う)

消防署は会社から歩いて5分のところにあるのだ。

救急車に乗せられた俺は救急隊員に色々と症状について訊いてきた。腹痛と下痢と寒気でボロボロの俺は答えるのも辛い。他の救急隊員は受け入れ先の病院を捜しているようだ。なかなか救急車は走り出さない。何してんだよと思ったら、受け入れ先を捜していた救急隊員が「一番近くの病院でよいか」と訊いてきた。「何でもいいから、早く病院に連れて行ってください」と答える。

救急車が動き出す。しかし、サイレンは鳴らない。
何でサイレン鳴らさないんだと思っていたら、急にサイレンが鳴る。

ピーポー、ピッ!

鳴ったと思ったサイレンが直ぐに止まった。
救急車も止まった。

えぇ、何してんだよ!
止まってないで、早く連れてけよなぁ。


「降りますよ」
「はぁ…?」

もう病院に到着していた。

俺が連れてこられた病院は会社から歩いて2分のところにある病院だった。
ここが救急病院だとは知らなかった。

ちょっと行って、道を横断したら病院じゃねぇか。救急車に乗せないで、さっさと担架で運ばれたほうが早かったろ。サイレンなんか鳴らす意味が無いほど近い。

良く覚えているのはここまでだ。

病院から看護婦が出てきて俺を支える。そのまま診察室に運ばれた俺は、医者に診察されながら色々と訊かれたが良く覚えていない。注射を打たれたことは覚えている。他にも色々と検査されたようだが、まるっきり覚えていない。ただ、診察台の上で赤ん坊のように手足を縮めて震えていたことだけは覚えている。診察が終わった後、俺は個室病棟に連れていかれ、点滴を打って寝かされたようだ。

翌日、回診に来た医者に何の病気ですかと訊ねた。
「ただの腹痛だと考えて我慢していたら危なかった。早く病院に来て正解だったよ」と言われた。

俺はサルモネラ菌にやられていた。
食中毒だ。原因は豚肉しか考えられん。

俺は10日間ほど入院することになった。

俺の病室は3階の通りに面した位置にある。窓からは俺の勤めている会社が見える。病室の窓から見える風景は、いつも俺が歩き回っている場所だ。

社長も上司も同僚も、翌日直ぐに見舞いに来た。

上司に何であんな火が通っていない豚肉をくれたんだと文句を言ったら、「やっぱり危なかったかぁ」と言って笑っていた。俺があんなに苦しんだというのに、何ともふざけた上司だ。しかし、食中毒の原因は上司がくれた豚肉とは限らない。最初に食べた定食の豚肉ほうが怪しい気もする。

まぁ、兎に角、俺の食い意地が汚いのがいけないのだ…。

続く…。
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